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JPYSCは何が始まった?信託型円ステーブルコインの仕組みと現在の制限

2026年6月24日、日本円建ての信託型ステーブルコイン「JPYSC」の提供が始まった。ただし、開始されたのはブロックチェーン上を自由に送れる決済サービスではなく、まずはSBI VCトレードの口座内で売買・保有・償還を行う仕組みだ。

この記事では、JPYSCについて、発行体と取扱業者の役割、資金決済法上の位置づけ、JPYCとの違い、現在使える機能、今後の構想を分けて整理する。発表された将来像と、2026年8月時点で実際に確認できる機能を混同しないことがポイントになる。

この記事の要点

  • JPYSCは2026年6月24日に提供開始。発行体はSBI新生信託銀行、取扱窓口はSBI VCトレード
  • 現時点では口座内での売買・保有・償還が中心で、外部ウォレットへの入出庫には対応していない
  • 法定の100万円上限はない一方、サービス上は1回あたり最大1億JPYSCの発注上限がある
  • JPYSCレンディングは提供が始まっているが、円預金や預金保険の対象ではない
  • パブリックチェーン流通や企業間決済などは、条件整理や実装状況を分けて確認する必要がある

1-1. いつ・誰が・いくらを発行したか

2026年6月24日、SBIグループとStartale Group(シンガポールのフィンテック企業で、SBIホールディングスの持分法適用会社)は、日本円建ての信託型ステーブルコイン「JPYSC」の提供を開始しました。信託銀行が裏付け資産を管理する信託型の円建てステーブルコインとして、SBIグループはこれを国内初と説明しています。

関係する3社の役割を整理すると、次のとおりです。

立場担当企業役割
発行体(信託の受託者)SBI新生信託銀行信託財産の管理・JPYSCの発行
取扱業者(流通窓口)SBI VCトレード暗号資産交換業者・電子決済手段等取引業者として、利用者への発行・売買・償還の窓口を担当
技術協力Startale Groupブロックチェーン技術基盤の共同開発

日本国内でJPYSCを取り扱えるのは、現時点ではSBI VCトレードのみとなっています。

初日の発行量については、時間の経過とともに数字が変化した経緯があります。ここでは「ブロックチェーン上の発行残高」と「信託財産の金額」を分けて確認します。ブロックチェーン上の記録(Etherscan)によると、提供開始当日の6月24日18時08分時点では38億JPYSCが発行されていましたが、同日18時50分時点では100億JPYSCまで積み上がったことが確認されています。つまり38億円は途中経過であり、初日1日分としては最終的に100億JPYSCまで発行残高が伸びたと理解するのが正確です。これに対応する形で、裏付けとなる信託財産(預貯金口座残高)として約100億1,000円が金銭信託されていることも確認されています。SBI VCトレードは、この発行量の増加について、実際の顧客からの発行依頼とJPYSCへの資金需要を踏まえた結果だと説明しています。

なお、提供開始時点ではJPYSCはSBI VCトレードの口座内での取引に限定されており、外部ウォレットへの入出庫には対応していません。この制限の内容と理由については4章で詳しく確認します。

次の1-2では、JPYSCが法律上どのように位置づけられているのか、「信託型(3号電子決済手段)」という分類の意味を確認します。

参考資料

1-2. 法律上の位置づけ:資金決済法「信託型(3号電子決済手段)」とは何か

JPYSCのようなステーブルコインは、2023年6月に施行された改正資金決済法によって「電子決済手段」という法的な枠組みの中に位置づけられました。電子決済手段は、発行・移転の仕組みの違いによって、次の3つの類型に分かれます。

類型通称発行の仕組み発行・償還の金額上限
1号電子決済手段資金移動業型資金移動業者が為替取引の一種として発行資金移動業の種別(第一種〜第三種)に応じた送金上限が適用される
2号電子決済手段(1号と交換可能な型)不特定の者との間で直接売買はできないが、1号電子決済手段と交換できる個別の制度設計による
3号電子決済手段信託型(特定信託受益権)信託契約に基づき、受託者(信託銀行等)が利用者から預かった金銭を預貯金等で管理し、その信託受益権を電子的に記録・移転できるようにしたもの資金決済法上の法定金額上限なし

JPYSCはこのうち3号電子決済手段(特定信託受益権)に分類されます。信託銀行が受託者となり、利用者の資金を信託財産として自社の固有財産とは切り離して保全したうえで、その信託受益権をトークンとして発行する仕組みです。信託業法上、受託者には信託財産を安全に管理・運用する義務があるため、裏付け資産の保全という点で一定の法的な担保が働きます(信託財産の具体的な運用方法は2-2で確認します)。

ここで押さえておきたいのは、3号(信託型)には資金決済法が定める発行・償還の金額上限が存在しないという点です。これに対し、1号(資金移動業型)は、発行体が登録している資金移動業の種別(送金上限100万円の第二種など)に応じた上限の制約を受けます。この違いが、3章で確認するJPYCとの使い勝手の差の根本的な理由になっています。

ただし、注意しておきたい点があります。3号という分類は発行・移転の法形式を示すものであり、価格保証や預金保険の対象であることを意味しません。「上限がない」「信託だから安全」という言葉から、元本が保証された商品だと誤解しないようにする必要があります。裏付け資産がどう保全されるかは別の論点であり、2-2で改めて整理します。

なお、金融庁は2026年5月、特定信託受益権(3号電子決済手段)の裏付け資産について、運用対象資産(一定の国債や中途解約可能な定期預貯金等)・上限組入比率・元本毀損防止に係る具体的な要件を定める改正の考え方を公表しています。制度の詳細に関心がある場合は、この一次情報も参照してください。

次の2章では、この「信託型」の仕組みをもう少し具体的に、発行体・受託者・裏付け資産の関係として整理します。

参考資料

2-1. 発行体・受託者・受益権の関係(SBI新生信託銀行×SBI VCトレードの役割分担)

信託の仕組みは一般に、財産を託す「委託者」、託された財産を管理する「受託者」、その財産から利益を受け取る「受益者」という三者の関係で成り立っています。JPYSCの場合、これを担うのは主に次の2社です。

  • SBI新生信託銀行:受託者として、利用者から集めた資金を信託財産として管理・運用する。信託業法上、信託財産は受託者自身の財産(固有財産)とは分別して管理する義務がある。
  • SBI VCトレード:暗号資産交換業者・電子決済手段等取引業者として、利用者との窓口を担う。JPYSCの発行依頼の受け付け、購入・償還(買取)の取次ぎ、口座管理を行う。

利用者から見た資金の流れは、次のようになります(HTML化の際、はてなブログではMermaid図がそのまま表示されない可能性があるため、表・横並びボックス・SVG図のいずれかに変換すること)。

JPYSCの発行・保有・償還の流れ
利用者
SBI VCトレード
発行・償還の窓口
SBI新生信託銀行
受託者・信託財産を管理
信託財産
預金・国債
信託受益権をトークン化
JPYSC
口座残高として記録
口座内で
保有・取引・償還

法律上の信託受益権と、利用者が画面で見る口座残高の関係を簡略化した概念図。現時点では外部ウォレットへ移転できない。

利用者が日本円をJPYSCに換えると、その金額に相当する資金がSBI新生信託銀行のもとで信託財産として管理され、その信託受益権がJPYSCというトークンの形で発行されます。逆に、JPYSCを日本円に戻す(償還する)場合は、信託財産から対応する金額が払い戻される仕組みです。SBI VCトレードは、この発行・償還の受付窓口であると同時に、利用者がJPYSCを保有・取引するための口座を提供する役割も担っています。

ここで、2つのレベルを分けて理解しておくことが大切です。ひとつは、信託契約に基づく法律上の権利関係(信託財産の受益権が誰にどう帰属するか)です。もうひとつは、利用者がSBI VCトレードの画面上で目にするJPYSCの口座残高です。利用者が普段扱うのは後者のサービス上の残高表示ですが、その裏付けとして前者の信託受益権という法律上の仕組みが存在する、という2階建ての構造になっています。

なお、技術基盤の共同開発にはStartale Group(シンガポールのフィンテック企業、SBIホールディングスの持分法適用会社)が参画しており、JPYSCはブロックチェーン(イーサリアム)上でERC-20トークンとして発行されています。ただし現時点では、この記録は主にSBI VCトレードの口座内での残高管理として機能しており、利用者が自分で外部のウォレットに移せるわけではありません(詳細は4章)。

次の2-2では、信託財産が具体的に何で運用されているのか、裏付け資産と価値担保の考え方を確認します。

参考資料

2-2. 裏付け資産と価値担保の考え方(信託財産=預金+国債)

ステーブルコインが「1JPYSC=1円」という価値を保てるかどうかは、裏付けとなる資産が何で、どれだけ安全に管理されているかにかかっています。JPYSCについて、SBI新生信託銀行は信託財産の運用対象として銀行預金および日本国債を挙げています。値動きの大きい株式や社債、暗号資産のような資産を運用対象とはしていません。

ここで、「運用対象として何が示されているか」と「発行開始時点で実際にどういう構成だったか」は分けて理解する必要があります。運用対象は預金・国債の2種類が示されていますが、その配分比率(預金と国債の割合)は、2026年8月時点で公表情報からは確認できていません。実例として確認できているのは、提供開始日(2026年6月24日)時点で、発行されたJPYSCに対応する形で、信託財産(預貯金口座残高)として約100億1,000円が金銭信託されていたという1点のみです(1-1参照)。この時点では預金として管理されていたことは分かりますが、その後国債での運用が組み込まれているかどうかまでは、この事実だけからは判断できません。

国債の値動きや金利との関係について、より詳しく確認したい方は国債の仕組みをやさしく整理|個人向け国債・金利・利回り・価格のつながりも参考になります。

信託業に関する法令上のルールとして、金融庁は2026年5月、特定信託受益権(3号電子決済手段)の裏付け資産について、運用対象資産・上限組入比率・元本毀損防止に係る具体的な要件を定める考え方を公表しています。つまり、裏付け資産が発行残高を下回らないようにする仕組みを法令上作ろうとしている、という制度設計の方向性は確認できます。ただし、これは「絶対に元本割れが起きない」ことを保証するものではなく、あくまで受託者に対して課される管理上の要件です。具体的な組入比率などの数値要件は、本記事執筆時点では別紙PDF等の詳細資料に記載されており、本記事では確認しきれていません。

また、信託財産は受託者であるSBI新生信託銀行の固有財産とは分別して管理されるのが、信託の一般的な性質です。仮に受託者や流通業者の経営が悪化した場合でも、信託財産は受託者の他の債権者による差押え等の対象にならない(倒産隔離)とされています。ただし、これは「信託財産という括りの中では受託者の他の債務から切り離される」という信託契約上の性質であって、元本保証や預金保険による保護と同じ意味ではありません。信託財産の価値自体が市場環境や運用状況によって変動する可能性がある、という点は別の問題として残ります。

預金と信託型ステーブルコインの制度的な違いを確認したい方は、銀行・預金の基礎知識|金利・預金保険・ATMの確認ガイドで、預金保険の保護範囲(1金融機関・1預金者あたり元本1,000万円とその利息)を整理しています。ここで確認しておきたいのは次の1点です。

信託型であっても銀行預金そのものではなく、預金保険制度の対象になるとは限らない。

次の3章では、こうした信託型の仕組みが、先行するJPYC(資金移動業型)との違いにどう表れているのかを確認します。

参考資料

3-1. 発行上限・想定利用者の違い(法人・機関投資家向け vs 個人向け)

日本円建てステーブルコインとして先行しているのが、JPYC株式会社が発行する「JPYC」です。JPYCは2025年8月に国内初の資金移動業者として登録を受け、資金決済法上の1号電子決済手段(資金移動業型)として発行されています。

資金移動業には送金額に応じた区分があり、JPYCは1回あたり100万円以下の送金を扱う第二種資金移動業の枠組みで運営されています。実際の上限運用も、当初は「1日あたり100万円」でしたが、2026年5月15日の発行・償還プラットフォーム「JPYC EX」の更新により「1回あたり100万円」に変更されました。これにより、1日に複数回発行すれば、合計では100万円を超える発行も可能になっています。

これに対しJPYSCは、1-2で確認したとおり3号電子決済手段(信託型)であり、資金決済法上の発行・償還の金額上限はありません。

ここで区別しておきたいのが、「法律で決まっている上限(法定上限)」と「事業者が独自に設定しているサービス上の上限(サービス上限)」です。JPYSCには法定上限がない一方、SBI VCトレードの公式ページには、JPYSCの取引について「1取引あたり最大1億JPYSC」という発注数量の上限と、「(JPYCのような)100万円規制はない」旨が明記されています。つまり、JPYSCは法定上限こそありませんが、事業者側が実務上の上限を独自に設けている、というのが正確な理解です。

これらの違いを表にまとめると、次のようになります。

項目JPYCJPYSC
発行体JPYC株式会社SBI新生信託銀行
資金決済法上の分類1号電子決済手段(資金移動業型)3号電子決済手段(信託型)
法定上限1回100万円(第二種資金移動業の送金上限)なし
事業者のサービス上限JPYC EXの発行ルールによる1取引あたり最大1億JPYSC(SBI VCトレード)
外部ウォレットへの入出庫可能現時点では不可(4章参照)
預金保険の対象か対象外対象外(2-2参照)
現在利用できる機能発行・保有・外部送付・各種サービスでの利用SBI VCトレード口座内での売買・保有・償還、JPYSCレンディング(5章参照)
主な想定用途個人・ブロックチェーン利用者向けの少額決済・Web3サービス利用企業間の大口決済・機関投資家向け取引(各社の説明による整理)

JPYCが個人の少額決済やWeb3サービスでの利用を主な想定利用者としているのに対し、JPYSCは企業間の大口送金や、機関投資家による大量のトークン取引といった、より大きな金額を動かす用途を想定して設計されています。ただし、この「JPYCは個人向け」「JPYSCは法人・機関投資家向け」という整理は、資金決済法上の分類そのものが個人向け・法人向けを直接定めているわけではなく、各社の用途説明やサービス設計(送金上限の水準、口座開設の要件など)に基づく実務上の位置づけである点には注意してください。1-2で見た資金決済法上の規制類型(資金移動業か信託業か)の違いが、結果としてこうした利用者像の違いにつながっている、という理解が正確です。

次の3-2では、この規制構造の違いが、実際の使い勝手にどのような差を生んでいるのかを確認します。

参考資料

3-2. 規制構造の違いが生む使い勝手の差(上限なし設計の意味)

3-1で確認した「上限あり/上限なし」という違いは、そのまま「今すぐ自由に使えるかどうか」という使い勝手の差にもつながっています。

JPYCは資金移動業という、以前から個人向けの送金・決済サービスで実績のある規制の枠組みの中で発行されています。送金額に上限があるかわりに、監督当局による確認の仕組みもすでに整っており、利用者は発行後すぐにパブリックチェーン上で外部ウォレットに移したり、他のサービスと連携させたりできます。

一方のJPYSCは、上限のない信託型という設計を選んだことで、大口の資金移動を1回で完結できるという利点を得ています。しかしその代わりに、4-2で確認するとおり、SBI VCトレードは公式に「関係法令・税務実務上の取扱いの整理」と「監督当局の確認」を、外部への移転機能を提供するための条件として挙げています。

ここから先は、その条件が挙げられている意味について筆者が考えた整理であり、SBI VCトレードが公式にそう説明しているわけではない点をお断りしておきます。上限のない大きな金額が、規制の目が届きにくい形で自由に流通してしまうことを避けるために、慎重に体制を整えてから移転機能を開放しようとしているのではないか、というのが一つの見立てです。

つまり、「発行・償還に上限がない」ことは単純に自由度が高いという意味ではなく、その自由度に見合うだけの管理体制・監督体制を整えるまでは、利用範囲をあえて限定しておくという判断とセットになっている可能性があります。JPYSCが提供開始時点でSBI VCトレードの口座内に限定されているのは、こうした設計思想の裏返しと見ることができます。この現状の制限の具体的な内容は、4章で確認します。

参考資料

4-1. 「SBI VCトレード口座内限定・外部ウォレット出庫不可」の実態

ここまで見てきたとおり、JPYSCは資金決済法上、発行・償還に金額の上限がない信託型のステーブルコインです。しかし、「上限がない=自由に使える」わけではないというのが、2026年6月24日の提供開始時点での実態です。

現時点で確認できているJPYSCの利用範囲は、次のとおりです。

  • SBI VCトレードに口座を持つ利用者が、口座を通じてJPYSCの発行(円からの交換)を依頼できる
  • 発行されたJPYSCは、SBI VCトレードの口座残高として保有できる
  • 口座を通じて日本円への償還(買取)ができる
  • 価格は「1JPYSC=1円」で固定されており、他の暗号資産のように市場価格が変動することはない
  • 1取引あたりの発注数量には上限があり、最大1億JPYSCまでとされている(3-1参照)
  • 現在、JPYSCを使って暗号資産を購入することはできない

一方で、提供開始時点でSBI VCトレードが明言しているのは、「JPYSCの入出庫には対応していない」という点です。つまり、自分のSBI VCトレード口座から、MetaMaskなど外部の暗号資産ウォレットにJPYSCを送り出すことはできません。JPYSCはイーサリアム上のERC-20トークンとして発行されているものの、利用者から見れば、提供開始時点ではSBI VCトレード内で売買・保有・償還が完結するサービスと表現するのが正確です。

これは、法律上「発行・償還に上限がない」ことと、実際にサービスとして「誰でも自由に外部へ移せる」ことが、別の問題であることを示しています。上限のない大口の資金が、監督の目が届かない形で自由に流通してしまわないよう、外部への移転機能はあえて提供開始時点では実装されていない、と理解できます。

この制限がいつ、どのような条件で解除される見込みなのかは、次の4-2で確認します。

参考資料

4-2. パブリックチェーン流通に向けて事業者が示している条件(法令・税務実務の整備待ち)

SBI VCトレードは、JPYSCを外部のパブリックチェーン上で自由に流通させる体制へ移行する方針自体は明言しています。公式サイトでは「監督当局の確認を前提として、できるだけ速やかに国内外においてパブリックチェーン上での流通を可能とする体制への移行を目指す」としています。

移行の条件として挙げられているのは、次の2点です。

  1. 関係法令・税務実務上の取扱いが整理されること
  2. 監督当局の確認を経ること

報道機関の取材に対しても、SBI VCトレード側は「関係法令・税務実務上の取扱いが整理され次第」という条件を繰り返しつつ、「なるべく早い段階を考えている」とコメントしています。ただし、具体的な移行時期についてはスケジュールが示されておらず、2026年8月時点では「未定」というのが正確な状況です。

なお、「関係法令・税務実務上の取扱い」の具体的な中身(例えば、外部移転時の本人確認や、税務上の取扱いの詳細など)について、SBI VCトレードから項目ごとの詳しい説明は公表されていません。読者としては、「解決すべき論点が残っている」という事実は確認できるものの、その中身や解決の見通しまでは、現時点の公開情報からは分からないと理解しておくのが正確です。

この「構想はあるが実現時期は未定」という状態は、5章で確認する想定活用領域の話とも共通しています。次章では、JPYSCがどのような用途での活用を見込んでいるのか、その現状を整理します。

参考資料

5-1. 現在提供されている機能と、オンチェーンFX・RWA決済など構想段階の活用領域

SBI VCトレードやSBIグループの発表・解説では、JPYSCの将来的な活用先として、主に次の6つの領域が挙げられています。オンチェーンFX、機関投資家向けレンディング・キャリートレード、RWA(現実資産)決済、国内決済、クロスボーダー送金、OTC取引向け流動性です。

ただし、これらを一律に「構想段階」とまとめてしまうと、実際にはもう提供が始まっている機能を見落とすことになります。2026年8月時点の状況を、実装済みかどうかで整理すると、次のようになります。

状態内容
現在提供されているSBI VCトレード口座内での売買・保有・償還、JPYSCレンディング(貸コイン)
現在できない外部ウォレットへの入出庫(4章参照)
将来の構想として説明されているオンチェーンFX、RWA決済、クロスボーダー送金、OTC取引向け流動性
用途として名前は挙がっているが、実装状況の確認が必要機関投資家向けレンディング・キャリートレード、国内決済

JPYSCレンディング(貸コイン)は、SBI VCトレードが2026年7月16日から申込みを開始し、同月23日から貸出を開始したサービスです。JPYSCを保有する利用者が、SBI VCトレードにJPYSCを貸し出すことで利用料(利息に相当するもの)を受け取れる仕組みで、初回募集では貸出期間12週間・年率3%という条件が示されました。想定される年率は1〜3%程度とされ、マーケット環境により変動するとされています。最低貸出数量を満たせば個人を含む利用者が対象になるとされており、機関投資家に限定されたサービスではありません。

ここで注意したいのは、SBI VCトレードは公式に「JPYSCレンディングは円預金ではなく、預金保険制度の対象ではありません」と明記している点です。年率という利回りの表示だけを見ると預金の延長のように感じられますが、貸出先(SBI VCトレード)の信用リスクを利用者が負う商品であり、元本が保証された預金とは異なる仕組みです。

なお、この個人向けJPYSCレンディングと、5章冒頭で挙げた「機関投資家向けレンディング・キャリートレード」という用途が、同一のサービスを指しているのか、それとも別に構想されている法人・機関投資家向けの取引を指すのかは、公表情報からは判別できませんでした。少なくとも、「レンディングという用途そのものが構想段階にとどまっている」という理解は、2026年8月時点では正確ではなく、個人でも利用できる形ですでに一部実現しています。

一方、オンチェーンFXやRWA決済のように、JPYSCが他のブロックチェーン上のサービスと連携することを前提とした用途は、パブリックチェーンへの移行が実現して初めて具体化しうるものです。これらについて、具体的な提携先・開始時期が発表されている事例は、2026年8月時点では確認できていません。

つまり、「上限のない信託型という制度上の器」はすでに用意されており、その器を使った最初の具体的なサービス(口座内売買・レンディング)も動き出していますが、パブリックチェーンでの流通を前提とする用途は、まだこれから作られていく段階にあるというのが、正確な理解です。

次の6章では、この構想が現実になっていくとすれば何が変わるのか、そして読者にとって今の時点で何が意味を持つのかを整理します。

参考資料

6-1. パブリックチェーン移行後に何が変わる見込みか

4-2で確認したとおり、パブリックチェーン移行の実現時期は未定です。ただし、仮に「関係法令・税務実務上の取扱いの整理」と「監督当局の確認」が完了し、外部ウォレットへの入出庫が可能になった場合、何が変わりうるのかを整理しておきます。

最も直接的な変化は、SBI VCトレードの口座という単一のプラットフォームの外に、JPYSCを持ち出せるようになることです。これにより、5章で見た想定活用領域――他のブロックチェーン上のサービスと連携するオンチェーンFXやRWA決済、複数の金融機関・企業が関わるクロスボーダー送金など――が、初めて技術的に実現可能な段階に入ります。企業間の決済であれば、スマートコントラクト(あらかじめ定めた条件で自動的に実行される取引プログラム)を使って、入金確認から支払いまでを自動化するといった活用も視野に入ってきます。

また、日本円建ての信託型ステーブルコイン(3号電子決済手段)を目指す動きは、JPYSCだけではありません。日本ブロックチェーン基盤株式会社は2026年5月13日、ジャパンオープンチェーン(JOC)コンソーシアムの運営主体として、信託型の日本円建てステーブルコイン「EJPY」を2026年度内にJOC上で発行する方針を発表しました。また三菱UFJ信託銀行は、信託型ステーブルコインの発行基盤「Progmat Coin」を通じて、2025年11月に三菱商事・三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行等とともに、複数銀行が共同でステーブルコインを発行し企業間・クロスボーダー決済に使う実証実験を発表しています。JPYSCがパブリックチェーンでの流通を実現すれば、こうした信託型ステーブルコインの間で、企業間決済やRWA決済の分野において複数の方式を比較しながら使い分けていく段階に進む可能性があります。

ただし、これらはいずれも「移行が実現すれば」という前提つきの見通しであり、確定した計画ではありません。次の6-2では、こうした将来の話と切り分けたうえで、個人の読者にとって今の時点で意味があること・ないことを整理します。

参考資料

6-2. 個人利用者・一般読者にとって今の時点で意味があること/ないこと

ここまでの内容を踏まえ、「結局、自分に関係あるのか」という観点で整理します。

日常の買い物や個人間送金のために、個人が急いで利用する必要はありません。 3-1で確認したとおり、そもそもの想定利用者は機関投資家や法人間の大口決済であり、日常の買い物や個人間の送金に使うことを想定した設計ではありません。個人が手軽に使えるステーブルコインという意味では、資金移動業型で外部ウォレットへの出庫にも対応しているJPYCのほうが、現状は個人にとって身近な存在です。

ただし、5章で確認したとおり、SBI VCトレードの口座内での売買や、JPYSCレンディング(貸コイン)はすでに個人でも利用できる状態にあります。これらの利用を実際に検討する場合は、次の3点を確認する必要があります。

  1. JPYSCは銀行の預金ではないこと(2-2参照)
  2. JPYSCレンディングは預金保険制度の対象外であること(SBI VCトレードが公式に明記)
  3. レンディングは貸出先(SBI VCトレード)の信用リスクを利用者が負う商品であり、貸出先が経営破綻した場合には貸し出した分が戻らない可能性があること

「預金と同じように保護されるのか」という疑問を持った方は、銀行が破綻したら預金はいくら戻る?預金保険1,000万円の計算方法と対象外商品の扱いで、預金保険の対象商品と対象外商品の違いを整理しています。

一方で、知っておく意義があるのは、日本円建ての決済インフラの選択肢が広がりつつあるという大きな流れです。信託型(3号電子決済手段)という、法定の上限がなく大口決済に向いた仕組みが実際に動き始めたことで、企業間の決済コストや国際送金にかかる時間・手数料が将来的に変わっていく可能性があります。6-1で見たように、JPYSCと同じ信託型の枠組みには、メガバンク系のProgmat Coinや、JOCコンソーシアムが検討するEJPYなど、複数のプレーヤーが参入し始めています。こうした動きは、いずれ個人が銀行や証券会社を通じて間接的に恩恵を受ける可能性がある領域として、頭の片隅に置いておく価値はあります。

なお、本記事はJPYSCという商品の投資助言や利用の推奨を目的としたものではありません。ステーブルコインは元本が保証された預金とは異なり、発行体・受託者の信用状況や、信託財産の管理体制、関連する法制度の変更によって状況が変わりうる商品です。実際に利用を検討する場合は、SBI VCトレードなど発行元・取扱事業者が公表する最新の公式情報を必ず確認してください。JPYSCのように制度やサービスの開始時期が変わっていくテーマでは、発表日・施行日・実際の提供開始日を分けて確認することも重要です。この確認の考え方は、銀行・証券・保険の制度変更はどう読む?発表日・施行日・対象者・確認手順を整理でも扱っています。

参考資料

まとめ

JPYSCは、信託銀行が関わる日本円建てステーブルコインとして提供が始まった。一方、現時点で外部ウォレットへ自由に移せるわけではなく、制度上の上限と事業者のサービス上限も分けて見る必要がある。

個人が確認する順番は、今使える機能、日本円への戻し方、手数料・ガス代、資産管理と障害時の扱い、税務上の取扱いである。JPYSCレンディングを含め、円預金と同じものだと決めつけず、最新の公式書面を確認したい。

※本記事の制度・サービス情報は、GitHub原稿に記載された2026年8月時点の確認内容をもとに構成しています。利用や取引を検討する場合は、公開直前の公式ページ、契約書面、手数料、リスク、税務上の取扱いを確認してください。本記事は一般的な情報提供であり、個別の投資助言・法律相談・税務相談ではありません。